Available Light Photo

No photo, no life.

バルナックライカの逆襲

「カメラは持ち歩いていなければ、写真は撮れない」。

この数年、持ち歩くカメラは、一眼レフより小型軽量のフジのミラーレスカメラかLeicaのM型・Qデジタルだが、通勤時の鞄を薄型の背負うタイプのものに替えたこともあり、これらの小型カメラですら通勤時など、持ち歩きが煩わしく感じてきた。

f:id:alphoto:20191013092810j:plain

Leica DII, photographed with Leica M10 + Leica Summilux 50mm/f1.4 (f2.8, 1/60, ISO 2,000)

普通はコンパクトデジカメを使用すべきなのだろうが、こうしたコンパクト機を幾つか使ってみても、今一つ写真を撮っている気がしない。街中でいい光の加減だな、とふと思っても、写真に撮ろうという意欲が余り沸かないのである。そんな中、ひょんなことから、ネットでバルナックライカについての記事を見つけ、気がついたらLeica II型(II D)というモデルをオークションで落札していた。ホコリまみれの1933年製。Elmar 50mm 2.8をつけて試写してみたが、シャッター速度が遅めに出るし、あまり使用していなかったElmar 50mm 2.8も出てくる絵がユルい。結局、この夏日本に帰省した際に、ライカ整備で著名なフォトメンテナンスヤスダの安田様に整備してもらった。この機会に、別途ネットでElmar 50mm 3.5(赤)を格安で落札、SBOOIという素透しファインダーを付けて持ち歩くようになった。

f:id:alphoto:20191013093312j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f2.8, (f/5.6?, Fujifilm Venus 800)

いまさらフィルム?という思いはあったが、バルナックカメラを使ってみて、機材と写真について再発見したことが幾つかある。

まず携帯性。バルナックライカとElmarの組み合わせは、その圧倒的な携帯性が魅力だ。私のチノパンのポケットや背広の内ポケットに突っ込めるので、昼食時にオフィスの外にちょっとカメラを持って散歩に行くにも、同僚にカメラを持っているところを目にされずに済む(別に悪いことをしている訳ではないが、聞かれて応えるのも面倒だ)。レンズの出っ張りがないことのメリットは大きい。見易い素透しファインダと携帯性を兼ね備えたカメラとしては、以前所持していたフジのX100-Tがあるが、それに比べても厚さはかなり薄い。フィルムがフルサイズでありながら、ポケットからカメラを取り出してシャッターが切れる。このステルス性とシンプルさ。スナップカメラで最も重視すべきはやはり携帯性だと改めて認識させられる。

 

f:id:alphoto:20191013093704j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (f/8.0?, Fujifilm Acros 100)

 

f:id:alphoto:20191013093826j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (f/8.0?, Fujifilm Acros 100)

機能と撮影スタイル。最近の日本製のカメラを使用した後、Leicaのカメラを使用すると、そのシンプルさに驚かされると同時に、写真撮影の基本について考えさせられる。アマチュアで大した写真は撮れない私でも、一応、ピント、露出(光を読むことを含めて)、構図の3つの基本を押さえて、少しでもまともな写真を撮ろうとは心がけている積りだ。しかし、最新の日本製のカメラを使うと、多くの機能があるため、知らず知らずのうちに自分が怠けてきているような気がする。ミラーレスのファインダーを覗いていると、フォーカスポイントをどこに持ってくるかに気をとられて撮影対象そのものの観察がおろそかになっている気がするし、低照度の条件下でもHigh ISOオートの画質がよいので、光線状態についてあまり考えなくなってしまう。このバルナックライカは、機能が必要最小限であるため、写真撮影の基本をユーザーに今一度強く問いなおしてくる。

f:id:alphoto:20191013093921j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (Unknown aperture, Fujifilm Acros 100)

f:id:alphoto:20191013094046j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (f/3.5, Fujifilm Acros 100)

そして画質。フィルムがいいか、デジタルがいいかという話ではなく。ネガの場合、デジタルに比べて、ハイライトがかなり粘る。中間トーンのつながりも、デジタルよりぎらぎらせずなだらかだ(勿論フィルムによるのだろうが...)。今日巷では、画質と言うとシャープネスや解像度に重きが置かれている気がする。そうした絵を吐き出す最新デジタルカメラは、一つの完成系なのだろうか?それとも、極めて広いダイナミックレンジが得られる有機センサーが消費者用カメラに実用化されれば、解像度を妥協せずによりフィルムライクな絵が作りだせる時代が来るのではないだろうか?

f:id:alphoto:20191013094240j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (Unknown aperture, Fujifilm Acros 100)

f:id:alphoto:20191013094322j:plain

Leica DII + Leica Elmar 50mm/f3.5, (Unknown aperture, Fujifilm Acros 100)


フィルム管理の面倒さを考えると、正直バルナックをメインカメラにすることはあり得ない。しかし、デジタルカメラでの写真作りに、面白いフィードバックがありそうなことは確かだ。